「親知らずを抜くと小顔になる」「エラが目立たなくなる」――SNSや口コミでよく見かける話です。抜歯を迷っている人にとっては背中を押す情報に見えますが、実際のところはどうなのでしょうか。
結論から言えば、親知らずを抜いても顔の骨格は変わりません。ただし、そう感じる人がいる理由にも説明はつきます。この記事では、小顔になるという説の検証に加え、「何歳で生えるのか」「生えてこないのは異常か」「放置すると死亡するというのは本当か」といった、親知らずにまつわる疑問をまとめて整理します。
- 顔の輪郭をつくるのは顎の骨と咬筋。親知らずを抜いても骨格は変わらない
- 「すっきりした」と感じるのは、腫れが引いた後の見え方や食習慣の変化による
- 生えてこない人は珍しくない。異常ではないが、埋まっている位置の確認はしておく
- 放置による重篤化は極めてまれ。ただし腫れを繰り返す状態は放置しない
「抜くと小顔になる」は本当か
顔の横幅、いわゆるエラの張りをつくっているのは、次の2つです。
- 下顎角(かがくかく)……下顎の骨のエラにあたる部分。骨格そのもの
- 咬筋(こうきん)……噛むときに使う頬の筋肉。発達すると外側に張り出す
親知らずは歯列の最後方にあり、これらの構造をつくっているわけではありません。抜歯によって骨が削られるのは歯の周囲のごく一部で、外から見える輪郭には影響しません。したがって抜歯そのもので小顔になることはありません。
では、なぜ「変わった」と感じる人がいるのか
| 感じ方 | 実際に起きていること |
|---|---|
| 抜歯後しばらくして輪郭がすっきりした | 腫れが引いた状態を「引き締まった」と感じている |
| 頬のラインが変わった気がする | 抜歯後に硬いものを避ける生活が続き、咬筋の使用が減った |
| むくみが取れた | 食事内容や体重の変化など、抜歯以外の要因 |
| 写真写りが良くなった | 腫れの引いた時期と撮影条件が重なった |
咬筋は使わなければ細くなる筋肉なので、噛み方が変われば頬のラインが変化することはあります。ただしそれは抜歯の直接の効果ではなく、生活の変化によるものです。小顔を目的に健康な親知らずを抜くのは、目的と手段が合っていません。見た目の印象を整えたい場合は、口元全体のバランスから考えるほうが確実です。関連して口元を引っ込めるには歯列矯正が必要?Eラインに近づく治療法もご覧ください。
親知らずは何歳で生えるのか
一般に10代後半から20代前半にかけて生えてきます。ほかの永久歯がすべて生えそろった後、最後に顎の奥へ現れる歯です。ただし個人差が大きく、20代後半や30代になってから動き出す人もいます。
| 時期 | 起きていること |
|---|---|
| 10〜12歳ごろ | 顎の骨の中で歯の形ができ始める(レントゲンで確認できる) |
| 16〜20歳ごろ | 根が伸び、位置によっては生え始める |
| 20代前半 | もっとも生えてきやすい時期 |
| 20代後半以降 | スペースがなければ埋まったままになることが多い |
抜歯を予定するなら、根が完成しきっていない若い時期のほうが骨がやわらかく、回復も早い傾向があります。「いずれ抜く」と分かっているなら、先延ばしにしないほうが負担は小さくなります。
生えてこない人・ない人は異常なのか
異常ではありません。親知らずには次のようなパターンがあり、いずれも珍しくありません。
- もともと存在しない……先天的に形成されないケース。4本すべてない人もいます
- 骨の中に完全に埋まっている……存在するが生えてこない状態
- 一部だけ生えている……歯ぐきから頭を出した状態で止まっている
- 4本すべてまっすぐ生えている……問題なく機能していることもあります
顎が小さくなり、親知らずが生えるスペースが足りない人が増えているとも言われます。生えていなくても、一度レントゲンで位置と向きを確認しておくと、将来の判断がしやすくなります。とくに、埋まったままの親知らずが手前の歯を圧迫していないかは見ておく価値があります。
「放置すると死亡する」というのは本当か
検索候補に出てくるこの言葉に不安を感じる方もいます。結論としては、極めてまれではあるものの、理屈としてはあり得るというのが正確なところです。
親知らずの周囲で起きた炎症は、通常は歯ぐきの範囲にとどまります。しかし、免疫が落ちている状態などで細菌が顎の下から首の深い層へ広がると、気道が圧迫されるほどの重い感染症に至ることがあります。ごく限られた例ですが、適切な治療が遅れれば命に関わる状態になり得ます。
ただし、必要以上に恐れる話ではありません。次のサインがあるうちに受診すれば、通常は問題なく治まります。
- 腫れが顎の下や首まで広がっている
- 口が指2本分も開かない
- ものを飲み込むときに痛む、息苦しい
- 高熱がある
これらは夜間でも受診すべきサインです。腫れたときの対応は親知らずの虫歯・歯ぐきの腫れ|応急処置と受診タイミングで詳しく解説しています。
その他のよく聞く話を検証する
| よく聞く話 | 実際のところ |
|---|---|
| 親知らずを抜くと歯並びが良くなる | 直接的な改善効果は期待できません。歯並びを整えるのは矯正治療の役割です |
| 抜かないと歯並びが崩れる | 親知らずだけが原因とは限らず、加齢による変化も関わります |
| 抜くと頭が良くなる/悪くなる | 関係ありません |
| 上の親知らずは抜かなくてよい | 状態次第です。噛み合う相手がいないと伸びてきて頬を傷つけることがあります |
| 抜くと痩せる | 数日食事量が減ることはありますが、一時的なものです |
| 親知らずは将来使える | 移植のドナー歯として使える場合があります。ただし条件は限られます |
まとめ
親知らずを抜いても顔の骨格は変わりません。「小顔になった」と感じるのは、腫れが引いた後の見え方や、噛み方の変化によるものです。見た目を目的に健康な歯を抜くのは避け、抜くかどうかは問題が起きているかどうかで判断してください。
生えてこない人が珍しくないこと、放置による重篤化は極めてまれであることも、あわせて知っておくと不安に振り回されずに済みます。判断基準は親知らずは抜くべき?抜かなくていいケースの判断基準、全体像は親知らずとは?抜く・抜かないの判断から抜歯の流れ・費用・腫れまで完全ガイドをご覧ください。
よくある質問
- Q親知らずを抜けばエラは目立たなくなりますか?
- A
目立たなくはなりません。エラの張りは下顎の骨の形と咬筋の発達によるもので、親知らずの有無とは関係がありません。輪郭が気になる場合は、原因が骨格なのか筋肉なのかを見極める必要があるため、別の相談先が適しています。
- Q親知らずを抜くと歯並びが良くなりますか?
- A
抜いただけで歯並びが整うことはありません。矯正治療の計画上、スペースを確保するために抜歯が必要になる場合はありますが、それは治療の一部としての抜歯です。歯並びを改善したい場合は矯正の相談をしてください。
- Q30代になってから生えてきました。おかしいですか?
- A
珍しいことではありません。埋まっていた親知らずが後から動き出すことがあります。生えてくる過程で歯ぐきがかぶさり炎症を起こしやすいので、違和感が出たら早めに状態を確認してもらってください。
- Q親知らずが1本もありません。損をしていますか?
- A
むしろ、抜歯や炎症の心配がないという点では負担が少ない状態です。将来の移植ドナーとして使える可能性はなくなりますが、移植が適応となる場面自体が限られるため、気にする必要はほとんどありません。
- Q「放置すると死亡」という情報を見て怖くなりました。
- A
炎症が首の深い層まで広がる重い感染症は実在しますが、極めてまれです。腫れが顎の下や首まで広がる、口が開かない、飲み込みにくい、高熱があるといった段階で受診すれば、通常は問題なく治まります。過度に恐れる必要はありませんが、腫れを繰り返す状態を放置しないことは大切です。
- Q上の親知らずは抜かなくてよいと聞きました。
- A
状態によります。上顎は下顎に比べて処置が簡単で腫れにくいのは事実ですが、噛み合う下の歯がないと徐々に伸びてきて、頬の内側を傷つけたり噛み合わせに影響したりすることがあります。虫歯になっている場合も抜歯が検討されます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断や治療方針を示すものではありません。気になる症状がある場合は、必ず歯科医院で相談・受診してください。