家族に「夜、歯ぎしりがすごい」と言われた。朝起きると顎がだるい、頭が重い。歯科検診で「歯がすり減っていますね」と指摘された――歯ぎしりは、本人に自覚がないまま進むのが厄介なところです。
歯ぎしりは「癖」として片づけられがちですが、実際には歯・詰め物・顎の関節・歯ぐきに継続的な力を加え続ける行為です。長く続けば、歯が割れる、詰め物が外れる、顎が痛むといった形で表面化します。この記事では、歯ぎしりの種類と原因、体に起きること、歯科での診断とマウスピース(ナイトガード)治療、費用、そして生活面の対策までを整理します。
- 歯ぎしりには「こすり合わせる」「噛みしめる」「カチカチ鳴らす」の3タイプがある
- もっとも見逃されやすいのは、日中の無意識の食いしばり
- 治療の中心はナイトガード。歯ぎしりを止めるのではなく、歯を守る装置
- 保険適用で作れる。3割負担で5,000円前後が目安
歯ぎしりの3つのタイプ
歯ぎしりは専門的にはブラキシズムと呼ばれ、次の3つに分けられます。
| タイプ | どんな動きか | 音 | 気づき方 |
|---|---|---|---|
| グラインディング(きしり) | 上下の歯を横にこすり合わせる | ギリギリと鳴る | 家族に指摘される |
| クレンチング(くいしばり) | 強く噛みしめ続ける | ほぼ無音 | 朝の顎のだるさ、頬の内側の白い線 |
| タッピング | 上下の歯を小刻みに打ち鳴らす | カチカチ | 比較的まれ |
もっとも見逃されやすいのがクレンチング(食いしばり)です。音が出ないため誰にも指摘されず、しかも睡眠中だけでなく日中も起きています。パソコン作業中、運転中、集中しているとき――気づくと上下の歯が触れていないでしょうか。
本来、安静時には上下の歯は1〜2mm離れているのが正常です。触れているだけでも筋肉は緊張しており、これが長時間続くと顎や歯に負担がかかります。
自分で確認できるサイン
- 朝起きたときに顎がだるい、口が開けにくい
- 頬の内側に、噛み合わせの高さで白い線がある(圧痕)
- 舌の縁に歯型のような凹凸がある
- 歯がすり減って平らになっている、前歯の先が欠けている
- 知覚過敏がある(歯の根元がしみる)
- 詰め物や被せ物が外れやすい、割れたことがある
- こめかみや頬の筋肉が張っている、朝の頭痛がある
- 歯ぐきの一部だけが下がっている
頬の内側の白い線と舌の歯型は、自分で鏡を見て確認できる分かりやすいサインです。これがある場合、日中も強く噛みしめている可能性があります。
歯ぎしりで起きること
とくに注意したいのが、神経を取った歯とインプラントです。神経を取った歯はもろく、強い力で縦に割れると保存が難しくなります。詳しくは根管治療の失敗・再治療|症状と次の選択肢をご覧ください。歯ぐきが下がって根元がしみる場合は歯茎がしみる原因と改善方法|知覚過敏との違いは?も参考になります。
なぜ起きるのか
原因は一つに特定できないことがほとんどで、複数の要因が重なって起こると考えられています。
| 要因 | 内容 |
|---|---|
| ストレス・緊張 | もっとも関与が指摘される要因。日中の食いしばりとも関係する |
| 睡眠の質 | 浅い眠りのタイミングで起きやすいとされる |
| 噛み合わせ | 単独の原因とは言えないが、力のかかり方に影響する |
| 生活習慣 | 飲酒、喫煙、カフェインの多量摂取との関連が指摘される |
| 姿勢・作業 | 長時間の前かがみ姿勢や集中作業で日中の食いしばりが増える |
「噛み合わせを直せば歯ぎしりが治る」と説明されることがありますが、現在は噛み合わせだけが原因とは考えられていません。健康な歯を大きく削る治療を勧められた場合は、根拠を確認し、必要に応じて別の意見を聞いてください。
歯科での診断
本人に自覚がなくても、口の中には痕跡が残ります。
- 歯の摩耗……咬む面が平らになっている、エナメル質が削れて象牙質が見えている
- 頬の内側の圧痕・舌の歯型……強く噛みしめている証拠
- 骨隆起……下顎の内側や上顎の中央に硬い膨らみができることがある
- 歯のひび……光を当てて確認する
- 筋肉の触診……こめかみや頬の筋肉の張り・圧痛を確認する
- 画像検査……歯根の状態や顎関節を確認する
顎の痛みや口の開けにくさをともなう場合は、顎関節の状態もあわせて評価されます。
ナイトガード(マウスピース)治療
歯科での対応の中心はナイトガードです。ここで大事なのは、ナイトガードは歯ぎしりそのものを止める装置ではないという点です。目的は、力を分散して歯や修復物を守り、筋肉の過緊張をやわらげることにあります。
| 種類 | 特徴 | 向いている場合 | 費用の目安 |
|---|---|---|---|
| ハードタイプ(硬い) | 耐久性が高く、調整しやすい | 力が強い、長期間の使用 | 保険3割で5,000円前後 |
| ソフトタイプ(やわらかい) | 装着感がよく慣れやすい | 初めて使う、違和感が強い方 | 保険3割で3,000〜5,000円程度 |
| 自費のもの | 素材や設計の選択肢が広がる | 特殊な条件がある場合 | 1〜5万円程度 |
作製は、型取り→完成(1〜2週間後)→装着・調整という流れで、通院は2〜3回です。使い始めは違和感がありますが、多くは数日から2週間程度で慣れます。合わない場合は必ず調整してもらってください。合わないまま使い続けると、かえって顎に負担がかかります。
似ているが目的が違う装置
| 装置 | 目的 |
|---|---|
| ナイトガード | 歯ぎしりの力から歯と修復物を守る |
| スリープスプリント | 下顎を前に出して気道を広げ、いびきを軽減する |
| スポーツマウスガード | 競技中の外傷から歯と顎を守る |
形が似ていても目的と設計がまったく違います。いびきが気になる場合の装置についてはいびきは歯医者で治せる?スリープスプリントの効果、いびき治療に使うマウスピースの種類と選び方をご覧ください。市販品との違いはいびき防止マウスピースの市販品と歯科治療の違いで解説しています。
日中の食いしばりへの対策
ナイトガードは就寝中の対策ですが、日中の食いしばりには別のアプローチが必要です。有効なのは「気づく仕組みをつくる」ことです。
- パソコンのモニターや冷蔵庫に「歯を離す」と書いた付箋を貼る
- スマートフォンのアラームを1〜2時間おきに設定し、鳴ったら顎の力を抜く
- 気づいたら「上下の歯を離し、肩の力を抜き、息を吐く」を1セットにする
- 長時間の作業では、姿勢を変える休憩を入れる
- 就寝前にこめかみと頬の筋肉を軽くほぐす
「食いしばらないようにする」と意識するより、「歯を離す」という具体的な動作を思い出すほうが実行しやすくなります。数週間続けると、無意識のうちに離せるようになることがあります。
子どもの歯ぎしりは別に考える
子どもの歯ぎしりは、大人とは意味が違います。乳歯から永久歯への生えかわりの過程で、噛み合わせの高さを調整するために起きているとされ、成長とともに自然に減っていくことが多いものです。
ただし、歯が大きくすり減っている、顎の痛みを訴えるといった場合は相談してください。詳しくは子どもの歯ぎしりは病気?受診の目安と対処法をご覧ください。
まとめ
歯ぎしりは自覚しにくく、気づいたときには歯がすり減っていたり、詰め物が壊れていたりします。歯科ではナイトガードで歯を守る対応が中心になり、保険適用で作れます。ただし装置は歯ぎしりを止めるものではないため、日中の食いしばりへの気づきや生活面の見直しも並行して進めることが大切です。
朝の顎のだるさ、頬の内側の白い線、歯のすり減りに心当たりがあれば、一度相談してみてください。歯を失ってからでは元に戻せません。相談先はエリアから歯科医院を探すから探せます。
よくある質問
- Qナイトガードをつければ歯ぎしりは治りますか?
- A
歯ぎしり自体がなくなるわけではありません。目的は、力を分散して歯や詰め物を守り、筋肉の緊張をやわらげることです。装置で歯を守りながら、日中の食いしばりへの対策や生活面の見直しを並行して進めるのが現実的な向き合い方になります。
- Qナイトガードは保険で作れますか?
- A
歯ぎしりへの対応として作製する場合は保険が適用され、3割負担で5,000円前後が目安です。型取りと装着で2〜3回の通院が必要になります。素材や設計にこだわる場合は自費の選択肢もあります。
- Q市販のマウスピースでもよいですか?
- A
おすすめできません。歯型に合っていない装置は特定の歯に力を集中させたり、噛み合わせを変化させたりするおそれがあります。保険で作れば費用の差も大きくないため、歯科医院で作製することをおすすめします。
- Q歯ぎしりは自分では気づけませんか?
- A
音が出ないタイプは気づきにくいのですが、痕跡は残ります。朝の顎のだるさ、頬の内側の白い線、舌の縁の歯型、歯のすり減りが手がかりです。鏡で頬の内側と舌を見てみてください。心当たりがあれば検診時に伝えると詳しく確認してもらえます。
- Q噛み合わせを削れば治ると言われました。
- A
現在は、噛み合わせだけが歯ぎしりの原因とは考えられていません。削った歯は元に戻せないため、健康な歯を大きく削る提案を受けた場合は、その根拠と、削らない方法の有無を確認してください。判断に迷う場合は別の歯科医師の意見を聞くこともできます。
- Q顎が痛みます。歯ぎしりが原因ですか?
- A
関わっている可能性はありますが、顎の痛みには複数の要因が重なることが多く、原因の特定には診察が必要です。口が開けにくい、開閉時に音が鳴るといった症状をともなう場合は、顎関節の状態もあわせて評価してもらってください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断や治療方針を示すものではありません。費用や効果には個人差があります。気になる症状がある場合は、必ず歯科医院で相談・受診してください。
なお、食いしばりや歯ぎしりの力は歯の根元に集中し、くさび状の欠けをつくって冷たいものがしみる原因になることがあります。心当たりのある方は食いしばり・ストレスで知覚過敏になる?くさび状欠損との関係と歯科で行う知覚過敏の治療もあわせてご覧ください。
また、歯ぎしりや食いしばりは顎関節や咀嚼筋への負担にもなり、顎の痛みや口の開けにくさにつながることがあります。顎の症状もある場合は顎関節症とは?症状セルフチェック・原因・歯科での治療法を、装置の違いが気になる場合は顎関節症のスプリント(マウスピース)治療もあわせてご覧ください。