「オフィスホワイトニングをしたら歯がしみた…」――こうした経験は珍しくありません。短時間で白さを引き上げられる反面、施術直後から数日以内に一過性の知覚過敏様症状(ズキッとする鋭い痛み、冷温痛、空気痛)が出ることがあります。本記事では、なぜしみるのか(原因)を科学的メカニズムから解説し、起こりやすい人の条件・事前の予防策・施術中/後の対処法まで、実務的に役立つ情報を整理します。
結論から言うと、しみの大半は一過性で可逆的です。ただし、エナメル亀裂や象牙質露出などの基礎疾患が隠れていると症状が強く出ることも。正しい適応評価と予防・鎮静プロトコルを押さえれば、多くの場合は快適に白さを得られます。
オフィスホワイトニングで「しみる」メカニズム
オフィスホワイトニングでは、過酸化水素など高濃度の薬剤を歯面に塗布し、短時間で漂白を進めます。薬剤はエナメル質の微細孔を通って象牙質へ浸透し、有機色素を分解します。この過程で象牙細管内の体液が動く(流体移動)と、神経が刺激されて「キーン」とした痛みを感じやすくなります(流体力学説)。
また、薬剤塗布により一時的な脱水(乾燥)が起こると、エナメル/象牙質境界の刺激閾値が下がり、冷気・甘味・ブラッシングなどの軽刺激でも過敏に反応します。光照射を併用する場合、熱が加わることで知覚神経が感作され、しみが助長されることもあります。
代表的な刺激経路
(1)象牙細管の流体移動、(2)脱水による閾値低下、(3)温熱刺激、(4)表層微小欠損・亀裂からの直接刺激――これらが複合して一過性の痛みを生みます。
しみやすい人の特徴(リスク因子)
同じ施術でもしみの出方には個人差があります。特に象牙質が露出している、エナメルが薄い、微小亀裂がある、既往の知覚過敏がある方は症状が出やすい傾向です。歯周退縮で歯頸部が露出している場合も要注意です。
さらに、ブラキシズム(食いしばり・歯ぎしり)でエナメル表層にマイクロクラックが多い方、ホワイトニング直前の強いブラッシング/研磨、冷熱刺激の多い飲食習慣、高濃度・長時間の薬剤接触、光照射の熱負荷などが重なると、しみが増悪することがあります。
チェックしたい既往・所見
歯周退縮、楔状欠損、露髄に近い大きな充填、未処置う蝕、クラックライン、ホワイトスポット、既存の知覚過敏治療歴は、事前に申告・評価しましょう。
しみを起こしやすい施術条件
オフィスホワイトニングは短時間・高濃度で効果を出す分、薬剤濃度・塗布時間・回数が過敏症状に直結します。ガムプロテクター(歯肉保護)やラバーダムの不備があると、歯肉刺激による痛みも加わります。
また、光照射の熱がエナメル・象牙質の温度を上げると、神経が感作されやすくなります。必要以上の照射や近接照射、冷却不足は避けるべきです。施術間隔が短すぎる(例:短期に繰り返す)ことも、回復前の再刺激となり得ます。
プロトコルの最適化
濃度・回数・照射条件は一律ではなく、歯質や既往症に応じてパーソナライズすることが重要です。
「しみ」と「痛み」を見分けるポイント
多くの「しみ」は数時間〜48時間程度で消退します。冷温や甘味で短く刺すように痛むのが典型です。一方、ズキズキと自発痛が続く・夜間に強い・噛むと響くといった症状は、歯髄炎やクラック、咬合性外傷、薬剤刺激の過多などを示唆します。
痛みの性状・持続時間・誘因を記録しておくと、必要時に歯科での評価がスムーズ。鎮痛薬でコントロール不能、歯肉の白変/潰瘍、強い咬合痛がある場合は早めの受診が安心です。
可逆性の目安
数秒〜数十秒の短い鋭痛で、48時間以内に軽快するなら多くは可逆的です。長引く自発痛は要受診。
施術前にできる予防策
「しみ対策」は施術前から始まっています。まずは知覚過敏リスクの評価(退縮・亀裂・露出象牙質・う蝕・大きな充填)を行い、必要なら先に処置・シーリング・咬合調整をします。ブラキシズムが疑われる場合は、ナイトガード提案が有効です。
ホームケアでは、硝酸カリウムやフッ化物、CPP-ACP(リカルデント)含有の知覚過敏用ペーストを1〜2週間前から使用して象牙細管を封鎖・鎮静化。施術直前の強い研磨やホワイトニング歯磨き粉の使用は控え、表層ダメージを避けましょう。
禁忌・慎重適応の確認
無処置う蝕、歯髄疾患、重度の歯周病、重篤な知覚過敏、妊娠・授乳中(医院方針による)などは事前に要相談です。
施術中のしみ対策(院内プロトコル)
歯肉保護材の確実な封鎖、唾液・水分管理、適切な薬剤量と塗布時間の遵守が基本です。症状が出やすい歯頸部にはデセンス材(硝酸カリウム/フッ化物/アルギン酸カルシウム等)を先行塗布しておくと、痛みが軽減しやすくなります。
光照射を併用する場合は、距離と時間、冷却休止を管理し、過度な温熱負荷を避けます。途中で鋭い痛みが出たら一時中断・洗浄・デセンス再塗布を行い、必要に応じて濃度・回数を下げます。
プロテクションの徹底
歯肉マージンの段差・露出根面には保護材を厚めに。リークはしみ・白変の原因です。
施術後のしみ対策(セルフケア)
施術後24〜48時間は、極端な冷温・酸性飲食・砂糖多めの飲食を控え、刺激を減らしましょう。水分を十分にとり、歯の再水和を促すのも一手です。歯磨きはやわらかいブラシ+低研磨ペーストで優しく。
痛みが気になる場合は、指示に従って鎮痛薬を使用し、知覚過敏ペースト(硝酸カリウム/フッ化物/CPP-ACP)を朝夜に塗布。数日で軽快しない、悪化する場合は受診を推奨します。
再発予防のコツ
タッチアップ間隔を空ける/次回は濃度・回数・照射を控えめに/ホームホワイトニングとデュアルで負荷分散する、などの調整が有効です。
原因と対策の早見表
下表は、しみの主因とメカニズム、推奨される対策をまとめた早見表です。施術前カウンセリングや見積比較時のチェックリストとして活用ください。
同じ原因でも、歯質・既往・生活習慣で最適解は変わります。表はあくまで指標としてお役立てください。
主な原因 | メカニズム | 推奨対策 |
---|---|---|
象牙細管の開口・露出 | 流体移動で神経刺激 | 事前の知覚過敏ペースト(硝酸カリウム/フッ化物/CPP-ACP)、頸部コーティング |
高濃度・長時間の薬剤接触 | 脱水・浸透増加 | 濃度/時間/回数を個別最適化、途中デセンス塗布・冷却休止 |
光照射の温熱 | 神経感作 | 距離・時間管理、冷却、必要時は非照射プロトコルへ |
エナメル微小亀裂・咬耗 | 直接刺激・微小漏洩 | 咬合評価、ナイトガード、クラックの封鎖/修復後に実施 |
歯周退縮・露出根面 | 象牙質露出 | 歯頸部保護材の徹底、低刺激プロトコル、ホーム併用で分散 |
施術間隔が短すぎる | 回復前の再刺激 | 十分な間隔を確保(歯質・症状に応じて調整) |
ホーム×オフィスの使い分け
一度に強く攻めず、デュアル(ホーム併用)で分散すると症状が軽く、色戻り対策にもなります。
よくある疑問Q&A(抜粋)
Q. しみが強く出たら中止すべき? → その回の中断は有効です。洗浄・デセンス塗布・冷却休止で落ち着かせ、次回は濃度・回数・照射を調整。
Q. 神経にダメージは? → 施術管理下の一過性過敏が多く、可逆的です。ただし自発痛が続く/咬合痛が強い場合は精査を。
Q. 予防の決め手は? → 事前評価+知覚過敏ペーストの先行使用+歯肉保護・デセンスの院内プロトコルが三本柱。
症状が心配な方は、トライアル濃度や前処置(封鎖・ナイトガード)を提案してもらいましょう。安全域を確かめながら白さを高められます。
受診の目安
48時間以上の持続痛、夜間の自発痛、噛むと強い痛み、歯肉の白変・潰瘍を伴う場合は早めに受診しましょう。
まとめ|しみはコントロールできる
オフィスホワイトニングの「しみ」は、象牙細管の流体移動・脱水・温熱感作が主因で、事前評価とプロトコル調整により多くは抑制できます。しみやすい人の特徴を把握し、予防(前)・鎮静(中)・保護(後)の三段構えで臨みましょう。
不安がある場合は、低刺激設計(低濃度・短時間・非照射/冷却)やデュアル法も選択肢。あなたの歯質・生活に合わせたパーソナライズで、快適に白さを手に入れてください。
よくある質問(オフィスホワイトニングとしみ)
Q1. しみるのは普通ですか?どのくらい続きますか?
多くは一過性で、数時間〜48時間以内に軽快します。冷温・甘味・風で「キーン」と短く痛むのが典型です。長引く自発痛や夜間痛は受診を推奨します。
Q2. なぜしみるのですか?(原因)
高濃度薬剤がエナメル微細孔から象牙質へ浸透し、象牙細管内の体液が動くことで神経が刺激されるためです。脱水や光照射の温熱も感作要因になります。
Q3. しみやすい人の特徴は?
歯周退縮・象牙質露出・エナメルの薄さ・クラック・既往の知覚過敏・強いブラッシング・ブラキシズム(食いしばり/歯ぎしり)などがある方は症状が出やすい傾向です。
Q4. 施術前にできる予防はありますか?
1〜2週間前から硝酸カリウム・フッ化物・CPP-ACP入りの知覚過敏ペーストを使用し、う蝕や大きな充填・亀裂は先に治療します。直前の強い研磨は避けましょう。
Q5. 施術中にしみたらどうしますか?
一時中断し洗浄、デセンス材を再塗布し、必要に応じて濃度・回数・照射時間を下げます。歯肉保護材の再封鎖や冷却休止も有効です。
Q6. 施術後は何に気をつければよいですか?
24〜48時間は冷温・酸性・糖分の強い飲食を控え、やわらかいブラシと低研磨ペーストで優しく清掃。必要に応じて鎮痛薬と知覚過敏ペーストを継続します。
Q7. デュアル(ホーム併用)にするとしみにくい?
負荷を分散できるため、単回の高強度刺激が減り、症状が軽くなることがあります。白さの持続にも有利です(適応は要相談)。
Q8. しみが強いときは中止すべき?神経にダメージは?
その回の中断は有効で、多くは可逆的です。ただし自発痛が続く・噛むと響く・歯肉の白変/潰瘍がある場合は早期受診し評価を受けてください。