結論から言うと、スポーツドリンクは糖(発酵性炭水化物)+酸(低pH)の組み合わせにより、虫歯と酸蝕のリスクを高めます。とくにちびちび頻回飲みや就寝前の摂取は要注意です。
とはいえ、発汗量が多い競技や長時間運動では、糖・電解質の補給がパフォーマンス維持に役立つ場面もあります。本記事では、運動強度・時間で飲み分ける基準と、リスクを下げる飲み方・時間設計・応急リセット、さらに種目別の工夫まで、今日から使える実践策に落とし込みます。
なぜスポーツドリンクで虫歯・酸蝕のリスクが上がるのか
スポーツドリンクの多くはpHが酸性で、飲んだ直後に口腔内pHが急降下します。さらに糖が含まれると、プラーク中の細菌が酸を産生し、低pH時間(脱灰時間)が延長しやすくなります。これが「量より回数」の問題です。
運動中は唾液分泌が減りがちで自浄・緩衝能が低下します。つまり同じ飲料でも、運動中はダメージが増幅されやすい状況。そこで、飲むべき場面を絞る・飲み方を変えるだけでも口腔ダメージを大きく下げられます。
虫歯と酸蝕、何が違う?
虫歯は細菌が作る酸で歯が溶ける疾患、酸蝕は飲食物などの酸で歯が化学的に溶ける現象。スポドリは両方のリスクを併発しやすい点が厄介です。
運動時間・強度で飲み分ける(基本指針)
スポーツドリンクは「いつでも誰でも」ではなく、運動の長さと強度で選択します。短時間・軽強度なら水で十分。長時間・高強度では糖・電解質の補助が有利になる局面があります。
また、飲むとしても“1回量をまとめる”ことが重要。だらだら飲みは低pH時間を延ばし、虫歯リスクを押し上げます。
飲み分け早見表
迷ったら下表を基準に。体質や発汗量で微調整してください。
運動条件 | 推奨ドリンク | 飲み方のポイント | 口腔リスク配慮 |
---|---|---|---|
〜60分・低〜中強度(部活の基礎練、散歩、筋トレ) | 水・無糖茶 | 喉の渇き前に少量ずつではなく、セットで飲む | 最後に水一口で締める |
60〜90分・中強度(ゲーム形式、持久走) | 水をベース、状況によりスポドリ少量 | 10〜20分ごとに区切って摂取 | 各回後に水でリンスor一口 |
90分超・高強度(試合、長距離、夏場の屋外) | スポドリ(必要量)+水 | 補給は回数を最小化し1回量をまとめる | 補給のたびに水→試合後はガム |
だらだら飲みを防ぐ時間設計とボトル運用
最大の敵は「ずっと口に含んでいる」状態です。時間で区切ること、水とセットで持つこと、飲み切り→水一口の型を固定することで、低pH時間を短縮できます。
ボトルは2本持ち(水+スポドリ)が理想。一本しか持てない場合は、まず水で喉を潤してからスポドリを所定量飲むと、摂取回数を抑えやすくなります。
実践テク:2本持ちの使い分け
喉の渇きには水で対応、エネルギーが欲しい時間帯はスポドリを“区切って”摂取→直後に水で一口リンス。ボトル位置を左右別にして混同を防ぎます。
リスクを下げる飲み方・アイテム(現場で使える)
飲み物の選択だけでなく、終了の合図と応急リセットをセット化すると効果が安定。道具は軽く・シンプルに。
とくに夏場や連戦は、乾燥→低pH時間延長のコンボが起きやすいので、意識的に「水で締める→無糖ガム」の順番を挟みます。
現場で使う“口腔リセット”
補給のたびに水を一口→軽く口内を回して吐き出す。試合後や練習後は無糖キシリトールガムを3〜5分。洗面台があれば水リンス→歯間清掃まで行えるとベターです。
おすすめ持ち物
マイボトル(水)/スポドリ用ボトル/無糖ガム/ミニフロス/口腔保湿スプレー(乾燥対策)——この5点で十分戦えます。
「スポドリ以外」の選択肢と工夫
試合中・長時間の高強度でなければ、水+電解質タブレットや薄めたスポドリ(指示があれば)なども選択肢。果汁飲料は酸性・糖の両面でリスクが高いので、基本は避けます。
カフェイン入り飲料は利尿や口腔乾燥の面で不利になり得ます。飲むなら水と同席し、口腔乾燥を招かないよう量とタイミングを管理しましょう。
飲料リスク比較(口腔の観点)
下表は口腔リスクの目安です(一般的な傾向)。運動栄養の観点は別途調整してください。
飲料 | 酸性度 | 糖 | 残留/粘着 | 総合リスク | 一言メモ |
---|---|---|---|---|---|
水 | 低 | 低 | 低 | 低 | 合間はこれ |
無糖スポーツウォーター/電解質水 | 中 | 低 | 低 | 中 | 酸性寄り、飲み切り→水 |
スポーツドリンク(糖入り) | 中〜高 | 高 | 低 | 高 | 区切って飲む+水で締め |
果汁飲料・炭酸飲料 | 高 | 高 | 低 | 高 | 運動前後は避ける |
プロテイン(加糖) | 低〜中 | 中 | 中 | 中 | 飲み切り→水で締め |
年齢・装置・シーン別の注意点
小児・思春期はエナメル質が未成熟な時期があり、頻回の糖・酸曝露に弱い傾向。部活や塾でのだらだら飲みの禁止を徹底しましょう。
矯正中(ブラケット)は装置周囲に停滞が起こりやすく、スポドリの残留が白斑(初期う蝕)を助長します。補給セットごとに水→ガムを固定してください。
マウスガード・アライナー使用時
装着中は基本的に水のみ。糖・酸入り飲料は装置内に滞留しリスクが跳ね上がります。補給時は外し、再装着前に歯と装置を水でリンスしましょう。
試合日プロトコル(歯を守りながら補給する)
当日の流れで“口腔リセット”を差し込むと、総ダメージを管理できます。以下は一例です。競技ルールや栄養計画に合わせて調整してください。
ポイントは開始前に水で湿潤・補給は区切る・各回の最後に水・終了後はガム→可能ならフロスの順序化です。
タイムライン例
60分前:水中心で軽く補水/15分前:必要なら少量の糖補給→水一口/試合中:補給は区切って、各回の最後に水/終了直後:水→無糖ガム3〜5分/帰宅後:フロス→ブラッシング→高フッ素(少量吐き出し)。
よくある失敗と修正ポイント
「のどが乾く前にこまめに」は口腔的には逆効果になりやすい運用。こまめでもセットで飲んで終わらせるに修正し、水で締めるを加えるだけで変わります。
「終わったらすぐゴシゴシ」も要注意。酸性直後は歯面が軟化しています。まず水でリンス→10〜30分後に軽圧ブラッシングが安全です。
今日からのチェックリスト
①ボトルは水+スポドリの2本体制 ②補給は区切る(1回量をまとめる) ③各回の最後に水一口 ④終了後は無糖ガム ⑤夜はフロス+高フッ素。
まとめ:補給は“区切る”、合間は“水で締める”
スポーツドリンクは使い方しだい。運動時間・強度で選び、だらだら飲まない——これだけで虫歯・酸蝕リスクは大幅に下げられます。さらに水で締める→ガム→夜の高品質ケアを組み合わせれば、歯を守りつつパフォーマンスも両立できます。
今日のアクション:①水とスポドリの2本持ちに変更 ②補給は“区切って・飲み切り” ③各回の最後に水→終了後は無糖ガム——この3つをチームで共有しましょう。
よくある質問(FAQ)
「ゼロシュガーなら安心?」「水と2本持ちが面倒…」「試合後はすぐ磨くべき?」など、運動時の水分補給で起こりがちな疑問に、口腔の観点から実践的に答えます。ポイントは“区切って飲む・水で締める・酸性直後は待って磨く”の3点です。
最適解は年齢・運動強度・発汗量・装置(矯正/マウスガード)の有無で変わります。ここでの回答は一般的な目安です。痛み・しみ・白斑が続く場合は歯科で評価を受けてください。
Q. ゼロシュガーのスポーツドリンクなら虫歯は大丈夫?
Q. 水とスポドリ、1本だけ持つならどっち?
Q. スポドリは薄めた方が歯には良い?
Q. 試合直後、すぐ歯を磨いてもいい?
Q. 子ども(部活・クラブ)にはどう指導すべき?
Q. カフェイン入りのエナジードリンクは?
Q. マウスガード・アライナー装着中は何を飲む?
Q. プロテイン(加糖)は運動後すぐOK?
Q. 無糖炭酸水は歯に悪い?
Q. 口が渇いて口臭が気になるときの最短対策は?